理工学部 建築学科の大澤昭彦教授の著書『正力ドーム vs. NHKタワー―幻の巨大建築抗争史』(新潮社)が、2026年日本建築学会著作賞を受賞しました。
日本建築学会著作賞は、建築に関する優れた著書を執筆し、学術・技術・芸術の進歩発展、あるいは建築文化の普及啓発に寄与した会員に贈られるものです。
大澤教授のコメント
このたび、2026年日本建築学会著作賞をいただき、大変光栄に存じます。
本書は、高度経済成長期の東京で構想された「幻の巨大建築」をめぐる戦後史を描いたものです。完成すれば世界初の屋根付き球場となるはずだった「正力ドーム」、高さ600メートル級の電波塔「正力タワー」と「NHKタワー」、さらには富士山を超える高さ4000メートルの「読売タワー」など、人々の記憶に残ることなく歴史に埋もれてきた計画の全貌を、多くの資料と関係者の証言をもとに明らかにしました。
これらの計画は、テレビメディアの誕生と発展、プロ野球の普及、東京オリンピックの開催、米軍基地の返還、皇族の縮小・華族の廃止、超高層ビルの誕生といった戦後の諸相と密接に関わっています。その意味で本書は、幻の巨大建築を軸に、戦災復興から高度経済成長へと至る東京の歩みと昭和という時代を捉え直す試みでもあります。
受賞理由では、「近現代建築史においてこれまで、中心的テーマとして扱われることのなかったタワー、ドームといったビルディングタイプに焦点を当てるとともに、個人史、社会史、都市史として戦後建築を記述した本書は、建築を捉える新たな視座と方法論を提示するものとして学術的意義が高い」との評価をいただきました。本書の試みに学術的な価値を見出していただけたことを大変ありがたく感じております。
また、執筆にあたっては、学術的価値と読み物としての面白さの両立を目指しました。その点についても、「圧倒的な臨場感をもって巨大建築計画をめぐる物語を描き切ることに成功している」との評に加え、「一般の読者からも関心を寄せられることが期待され、建築文化の社会への普及啓発に寄与する良書」との評価を頂戴しました。
本書を通じて、多くの方に建築や都市計画への関心を深めていただければ、これに勝る喜びはありません。
最後に、資料提供や取材にご協力くださった多くの皆様のお力添えにより、本書を形にすることができ、このような栄誉ある賞を頂戴することができました。この場を借りて、心より御礼申し上げます。
<付記>
本書の登場人物の中には、私の所属する東洋大学理工学部と浅からぬ縁を持つ人物がいます。
その一人が、屋根付き球場計画に関与した実業家・鮎川義介(戦前の日産コンツェルン総裁)です。戦後、鮎川は私財を投じて中小企業政治連盟を設立し、中小企業の発展による産業振興に力を注ぐとともに、東洋大学名誉総長として、産業を支える技術者の育成を目指して工学部(現在の理工学部)の設立に貢献しました。
もう一人は、建築学者の平山嵩です。平山は屋根付き球場計画の顧問会議のメンバーとして専門的な助言を行っていましたが、同計画が消滅した1961年に東洋洋大学工学部教授に就任し、建築学科の創設にあたりました。